なぜコーヒーの味を記録するのか
コーヒーの味は、その場では分かったつもりでも、驚くほど早く記憶から薄れていきます。香りや口当たりのような感覚は言葉にしにくく、記録しておかないと「おいしかった」というぼんやりした印象だけが残りがちです。これでは次の一杯を選ぶときの手がかりになりません。
味を記録しておくと、点と点がつながり始めます。気に入った豆に共通する産地や焙煎度が見えてきたり、苦手だと思っていた特徴が実は淹れ方のせいだったと気づけたりします。自分の好みが輪郭を持ってくると、豆を買うときもカフェで選ぶときも迷いが減っていきます。
もうひとつの効果は、味わう力そのものが育つことです。記録しようと思って飲むと、ふだん流してしまう細かな違いに自然と意識が向きます。回数を重ねるうちに、最初はひとくくりだった「酸っぱさ」が、明るい酸味と尖った酸味の違いとして感じられるようになっていきます。
- おいしかった一杯を、次の選択につながる情報として残せる
- 気に入った豆の産地や焙煎度の共通点が見えてくる
- 好みがはっきりして、豆選びやカフェでの注文に迷わなくなる
- 記録するつもりで飲むと、味の違いに気づく力が育つ
味を捉える五つの手がかり
テイスティングの第一歩は、漠然とした「おいしい・まずい」を、いくつかの要素に分けて捉えることです。難しく考えず、まずは酸味・甘み・苦み・コク・香りの五つを意識してみましょう。すべてを一度に評価しようとせず、ひとくちごとに一つの要素へ注意を向けるとやりやすくなります。
酸味は、明るくさわやかな印象を生むコーヒーらしさの軸です。レモンのように尖っているか、りんごのようにまろやかかで印象が変わります。甘みは砂糖の甘さとは違い、後味にふわっと残る心地よさのこと。苦みは焙煎が深いほど強くなり、香ばしさとして感じられることもあれば、雑味として残ることもあります。
コク(ボディ)は、口に含んだときの重さや質感です。水のように軽やかなものから、とろりと濃厚なものまで幅があります。香りは、カップから立ちのぼる香りと、口に含んで鼻に抜ける香りの両方を指します。花やフルーツ、ナッツ、チョコレートなど、何かにたとえると言葉にしやすくなります。
- 酸味は明るさの軸。尖っているか、まろやかかを見る
- 甘みは後味にふわっと残る心地よさとして感じる
- 苦みは焙煎の深さで変わり、香ばしさにも雑味にもなる
- コクは口の中の重さ・質感。軽いか濃厚かで捉える
- 香りはカップから立つ香りと、口で感じる香りの両方を見る
初心者向け、テイスティングの手順
順番に沿って味わうと、要素を取りこぼしにくくなります。まずは飲む前に、カップに鼻を近づけて香りを確かめましょう。淹れたての湯気に乗った香りが、いちばん華やかに感じられます。この時点で「甘い香り」「ナッツのよう」など、ひと言メモしておくと後で書きやすくなります。
次にひとくち、少し多めに口に含み、舌の上で転がすようにして全体に広げます。最初に感じる酸味、続いて広がる甘みやコク、飲み込んだあとに残る後味、という時間の流れで味は変化します。一回で全部を捉えようとせず、ひとくちごとに酸味、次は苦み、と注意の的を絞ると分かりやすくなります。
温度が下がると味の印象は大きく変わります。熱いうちは苦みや香ばしさが立ち、冷めてくると酸味や甘みがはっきりしてくることが多いものです。同じ一杯を熱いとき・少し冷めたときの二回に分けて味わうと、その豆の個性がよく見えてきます。
- 飲む前にカップの香りを確かめ、ひと言メモする
- 少し多めに含み、舌全体に広げて味わう
- 最初の酸味、広がる甘み、後味と時間の流れで捉える
- 熱いときと冷めたとき、二回に分けて印象を比べる
フレーバーの書き方と言葉選び
感じた味を言葉にするのが、テイスティング記録のいちばんの山場です。最初から専門用語を使う必要はありません。「すっきりしている」「甘い香りがする」「後味が長い」といった、ふだんの言葉でかまいません。大切なのは、正確さよりも自分が後で読み返して思い出せることです。
言葉に詰まったときは、身近な食べものや飲みもの、香りにたとえてみましょう。柑橘、ベリー、りんごといったフルーツ、ナッツやチョコレート、はちみつ、花の香りなどが手がかりになります。たとえに正解はないので、自分が連想したものを素直に書けば十分です。プロが使うフレーバーの一覧表を眺めると、語彙の引き出しが少しずつ増えていきます。
強さや好みの度合いを、星や五段階の数字で添えておくのもおすすめです。言葉だけだと後で比べにくいものも、酸味4・苦み2のように数字があると、記録同士を並べたときに傾向が見えやすくなります。そして最後に必ず、また飲みたいか・もう一度買いたいかという自分の評価をひと言残しておきましょう。これが好み探しの近道になります。
- 専門用語より、後で思い出せる自分の言葉を優先する
- 柑橘・ベリー・ナッツ・チョコなど身近なものにたとえる
- 酸味4・苦み2のように強さを数字で添えて比べやすくする
- また飲みたいか、買いたいかの評価を必ずひと言残す
豆と抽出レシピも一緒に残す
味の感想だけでなく、その一杯がどんな豆をどう淹れたものかを残しておくと、記録の価値がぐんと上がります。同じ豆でも淹れ方しだいで味は変わるので、豆の情報と抽出レシピをセットで残すことが、おいしさを再現する鍵になります。
豆については、産地(国・農園)、焙煎度(浅煎り・中煎り・深煎り)、精製方法、購入したお店、焙煎日あたりを書いておくと十分です。袋の裏のラベルを写真に撮っておくと、入力の手間が省けて取りこぼしも防げます。豆が新しいか古いかでも味は変わるので、いつ焼かれた豆かは意外と大事な情報です。
抽出レシピは、淹れ方(ハンドドリップ、フレンチプレスなど)、豆の量とお湯の量(比率)、お湯の温度、挽き目、抽出にかかった時間を残します。ここまで残しておけば、おいしく淹れられた一杯を後から同じ条件で再現できますし、味がいまひとつだったときも、何を変えれば良いかの手がかりになります。
- 豆は産地・焙煎度・精製方法・購入店・焙煎日を残す
- 袋のラベルを写真に撮っておくと入力の手間が省ける
- レシピは抽出方法・豆量とお湯量の比率を記録する
- お湯の温度・挽き目・抽出時間まで残すと再現しやすい
続けやすくする道具を用意する
テイスティング記録は、続けてこそ好みの輪郭が見えてきます。とはいえ、毎回ノートに項目を書き起こすのは手間がかかり、途中で面倒になりがちです。あらかじめ書き込む欄が決まった道具を用意しておくと、迷わず手早く残せて長続きします。
まず気軽に始めたい方には、コーヒーテイスティングシートが便利です。酸味・甘み・苦み・コク・香りの評価欄と、豆や抽出レシピを書き込む欄がそろっているので、項目に沿って埋めていくだけでテイスティングの形になります。印刷して飲むときの横に置いたり、カフェに持って行ったりと、手で書く心地よさを楽しめます。
集計や見返しまで手軽にしたい方には、コーヒー記録アプリの Kaffe があります。味の評価をスライダーやタグで残せて、豆やレシピ、写真もまとめて一杯ごとに保存できます。たまった記録から、自分が好きな産地や焙煎度の傾向を見返しやすいので、紙の手軽さと検索のしやすさのいいとこ取りで好み探しを続けられます。
- 書き込む欄が決まった道具を使うと、迷わず手早く残せる
- 紙で気軽に始めるなら、コーヒーテイスティングシートを印刷する
- 評価・豆・レシピ・写真をまとめるなら、記録アプリ Kaffe を使う
- たまった記録を見返して、好きな産地や焙煎度の傾向を探す